かたの力
NHKミッドナイトステージ館「わが魂は輝く水なり−源平北越流誌−」
芝居を企画させたら話題に事欠かないN川さん、ブランド力で今作は梨園と狂言の花形を同じ土俵へと招く。古典芸能の担保する型と型の怖ろしく磨かれてきた技術同志と、新劇女優の贅沢な饗宴。お膳立てで役目を終え、コラボを一番楽しんでいる観客は彼かも知れない。
特筆すべきは萬斎さんの老け演技。この俳優だと認識できなかったのは、個人的にジョニー・デップ*1、野村萬斎。「国盗人」初演の時カテコでもせむしのままで現れ、観客を現実へと返さない余韻に脱帽したのだが、今回も所作からそっくり変わる。しかしそれは「型」の使ったに過ぎないかのように軽やかだ。訓練された人が新劇の舞台に上がると、その身体能力自体がずば抜けた「芸(技)術」で「無形の文化」なんだということがよくわかる。劇団四季や長谷川さん*2の見せる文学座のレベルの高さもさることながら、古典芸能の御曹司として幼い頃から積み重ねた口伝で叩き込まれる所作・口跡。「型」を刷り込まれた肢体はご本人が仰る通り、サイボーグだ。
- 作者: 野村萬斎
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2001/12
- メディア: 単行本
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舞台装置。中越さんはムサシや今作の時代劇だと殊更美しい。それを1.5倍によく見せているのが照明。かぶりつきではなく、少し引いたところから観るのがいいと思う。
これだけの役者を揃えた、戯曲は自らの原点清水邦夫。
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/stage/theater/20080514et03.htm?from=nwlb
連合赤軍をベースに集団の狂気が主題であるというが、観客側にこの時代背景がないこと、役者の品のよさから伝わらない。それよりもこの時期上演された芝居に多かった夢と現、古典芸能役者の背景に相俟って父と子の愛憎の方がより伝わってきた。
「戦は人をどこかいびつにする。」
長期戦の中狂気に蝕まれていた木曾軍勢。夢で「あの頃に戻れる」と言う巴御前の誘惑に「時間は戻らない」ときっぱり言い切り、正気で居続けたかのように見えた実盛。夢から醒め、青春を過ごした森の素晴らしさを語って育てた息子に「やっぱりあれはただの美しい思い出だったよ」そう自嘲する。離見の見を盾に狂気から逃げ去るも、木曾軍から殺さず生かされていることに気が付いて、道化としてこと切れる。演出の手によってではなく、高い技術を持つ役者の力によって伝わる戯曲。
途中、萬斎さんが一瞬本人に復った、というか肉体が見えなくなり、魂だけで演じたように思えたシーンがあった。サイボーグと言うまで訓練を重ねたからそう見えたのか、魂が入っていたからそう見えたのか、映像では判断しかねる。
嬌艶な女性と異種の古典芸能の役者が共演した饗宴、なんて贅沢なんだろう。しかしその実は異種格闘の競演ではなく、豪華な幕の内弁当をいただいた感。N川さんは名興行師であって、演出家と考えるべきではないのかもしれない。