デッカードはハッピーエンドの夢を見るか?

今更ながら「ブレードランナーファイナルカット

ブレードランナー ファイナル・カット スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]

ブレードランナー ファイナル・カット スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]

つきあいで鑑賞。
もじられたタイトルは誰もが聞いたことのある、SFの巨匠フィリップ・K・ディックが原作。でも映画のお話は原作とはちょっと違っているらしい。パトレイバー攻殻機動隊みたい。
地球が汚染され、宇宙に移住しなきゃならなくなった時に、人間含む生物全般が貴重になっちゃったので、宇宙で工事なんかさせられない、ってことで開発された改良型人造人間(作中ではレプリカント)に、やっぱり感情が芽生えてしまい脱走した「やつら」を取り締まる警察官のお話(違。
勧善懲悪の刑事物は、銭形平次刑事コロンボ、西部劇…どの時代で描いても小気味好い。「マトリックス」や押尾作品で今や珍しくない電脳化された未来の、「正義」ではなく「闇」に焦点を当て、“27年前”に“実写化”しようとしたリドリー・スコットの気骨を感じるフィルムノワール

椅子が必要なら買ってこないで作る!ところからやっている(ref.メイキング)というセット。神は細部に宿るという言葉を脅迫的に実践した、昔の九龍みたいなアジア風ダウンタウンのセットに、日本語やら中国語がやたら目につくんだけど、間違い甚だしくて面白い。30年前の理解として極上な方だったと拝察。*1

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー」の舞台も日本。しかも東京ではなく千葉!宝生舞が出てた「未満都市」の舞台も千葉だった。(←一緒にするな!)何故日本。何故千葉。

見所は悪役の演技。「ダークナイト」のヒース・レジャーくらい素晴らしい。スターウォーズで全盛期のハリソン・フォードを吹っ飛ばし、脱走者のリーダー役ルトガー・ハウアーが神懸かり的演技を見せている。最期の独白、アドリブだとか。マジ凄すぎる。マニアックだが、何語だかわからない言葉を喋るお目付役上司のガフが、実はジャック・スパロウ並にカッコイイ。

ストーリーで一番興味を惹かれたのは「フォークト・カンプフ法」という嘘発見器的テスト。作中のレプリカントは、人間より頭が良かったり身体的に優れている改良された人造の“人間”なので外見的に見分けがつかない。違いは感情や記憶がないだけ。その帰結として“感情移入能力がない”ことを“アンドロイドと人間の違い”と定義している。生物の身体的特徴以外、人間の定義なんて考えたことがない。

無心の歌、有心の歌―ブレイク詩集 (角川文庫)

無心の歌、有心の歌―ブレイク詩集 (角川文庫)

ウィリアム・ブレイクが人間の美点として「他人の痛みを解ってあげられる」と挙げていたのを思い出す*2。しかし「攻殻機動隊*3では身体をサイボーグ(義体)にそして脳が電脳化された人間が描かれる。ここで個人を特定するものはゴースト(魂)だとしている。幼い頃読んだ本を思い出した。
ドウエル教授の首 (創元SF文庫)

ドウエル教授の首 (創元SF文庫)

こういう部分がSFの醍醐味、電脳もののセンス・オブ・ワンダーなんだろう。哲学的だなぁ。

刑事追跡ものとしてさらっと観る、神演技に酔う、深読みして整合性にツッコむ、人間の定義について考える。いろんな楽しみ方のできる作品。

*1:因みにSUSHIバーで注文するのはエビ天丼とそば。押し問答はエビ2本を倍にしろと言っているらしい(メイキング)ガフに拉致されてもまだ食べてるのがカワイイ。

*2:苦しんでるのが家族だったらどうすんの、他人にも思いやりをもって接しなさいよー!という文脈

*3:ちなみにタクを素直に尊敬するようになった一冊。ビル・ゲイツが言う「オタクには親切にしよう。彼らの下で働く可能性が高い。」は真なり。マンガなのにもかかわらず、欄外にきったない字で解説が満載、別途専門用語の精読をも要求される難解さ。読むのが相当苦痛だった(笑)