藪の中

『南へ』
東京芸術劇場中ホール

1階後方上手

真綿の靄の中。
 火山*1、富士山、マスコミ、戦争、アンサンブル、神的存在、無知な一般人。過去の野田舞台のどれかで観たことのある/見慣れたモチーフ。一つだけ決定的に違ったことがある。観劇後の感覚。解らないと思うのはいつものことなのだが、過去舞台と比べ、解らなさの種類が違った。未体験の料理に驚くのではない、普通の卵焼きを出され、他の食材の組み合わせで出来ている事ぐらい君だって当然気付いているよねと静穏に言い放たれる感覚、諦念に見せておきながら切に信じる剰り、振り向くと2センチ前に真顔の君が居たような感覚。わーい言葉遊びだ!野田節だ!帰ってきたと思うとさざ波でカタルシスが無い。その分観客への直接的な問いかけは年々増えている。言葉の嘘に込める誠意と真事はそのまま今回の芝居に通じている。自分をどうやって自分だと信じるのか、信じさせるのか。ひいては観客を信じたい、信じさせてくれと言われているようだ。ポスターと同じ距離で、あの声で。白頭山の宿題をこなして咀嚼してからもう一度観たいかを考えたい。
楽屋で期待値が上がってしまっていたA井さん、張り続けてトーンが同じになる傾向&口跡がまんま野田さんで彼女の抑揚ではなくちょっと残念。中日で疲労もたまっている頃なのだろうか。どんどん初演のテムジンに声も動きも思えてくる主役、華ちゃんの使われ方にほくそ笑み、チョウ・ソンハさんの鏡面に唸らされた舞台だった。

*1:あれは火星か